千葉地方裁判所 平成6年(行ウ)2号 判決 1997年6月30日
千葉県習志野市津田沼五丁目一三番四-一三〇五号
原告
村上孝次
原告訴訟代理人弁護士
宮川泰彦
同
坂井興一
千葉市中央区蘇我町一-五六六-一
被告
千葉南税務署長 飯田博
被告訴訟代理人弁護士
田口紀子
被告指定代理人
中井國緒
同
上武光夫
同
古川敞
同
吉原宏
同
浅野良一
同
佐藤大助
同
神谷信茂
同
清水守
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告に対し、平成三年一二月二六日付でした次の1ないし3の処分をいずれも取り消す。
1 原告の昭和六三年度の所得税確定申告についての更正決定のうち、総所得額九二五万〇三五一円、納付すべき税金マイナス一九八万七八二九円、を超える部分、及び同年度分の過少申告加算税賦課決定。
2 原告の平成元年度の所得税確定申告についての更正決定のうち、総所得額七九二万三八一八円、納付すべき税金マイナス二九〇万二一〇四円、を超える部分、及び同年度分の過少申告加算税賦課決定。
3 原告の平成二年度の所得税確定申告についての更正決定のうち、総所得額七七〇万四一〇五円、納付すべき税金マイナス二六八万九八六二円、を超える部分、及び同年度分の過少申告加算税賦課決定。
第二事案の概要等
一 (事案)
本件は、原告が、昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の各所得税に関し、積立普通傷害保険(保険料一括前払、期間五年、当初被保険者は原告の営む歯科診療所従業員)の保険料の支払に充てた金融機関からの借入金の各年度の支払利息につき、退職者分保険料相当額の借入金の利息を除く全額(昭和六三年度三二五万余円、平成元年度四六四万余円、平成二年度五五五万余円)が必要経費であるとして、各年度の確定申告(平成元、二年度は修正申告)をしたところ、被告(税務署長)が、当該保険には保険部分と積立部分があり、必要経費となるのは保険部分の支払(八%)のための借入金の各年度の支払利息であり、積立部分の支払(九二%)のための借入金の各年度の支払利息は必要経費とは認められないとして、各年度分の確定申告又は修正申告につき更正決定・過少申告加算税賦課決定の各処分をしたことから、原告において、右各処分には必要経費の判断に誤りがあって違法であると主張して、被告に対し、各処分(本税については修正申告額を超える部分)の取消を求める事案である。
二 (争いがない事実等)
本件では、原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の各所得税に関し、本件保険契約とその保険料の借入金による支払、借入金の支払利息を必要経費とする確定申告(修正申告)とその更正・賦課決定処分と不服審査、支払利息のうち必要経費となる範囲の点を除く当該所得税の基礎となる収入・経費・控除等の基礎的な計数関係(但し、平成二年度分につき配偶者特別控除の有無を除く)については、次のとおり、当事者間に争いがない、或いは、被告の主張を原告が明らかに争わないことから当事者間に争いがないものと看做される。
1 原告は、歯科診療所を営む歯科医であるが、昭和六二年九月に日本火災海上保険株式会社(以下「日本火災」という)と、同年一二月に千代田火災海上保険株式会社(以下「千代田火災」という)と、いずれも右診療所従業員(当時)を被保険者とする積立普通傷害保険(以下「本件保険契約」という)にそれぞれ加入した。
原告が加入した右積立普通傷害保険(本件保険契約)は、積立金預託と普通傷害保険を組合せた保険で、加入時に右積立預託金分(積立保険料)も含めた保険料を一括払するものであった。
2 原告は、本件保険契約で加入時に一括払した保険料(積立保険料と補償保険料)計九五〇〇万円(内計八七四〇万〇四七五円が積立金、その余が補償保険料)を、全額金融機関からの借入金で支払った。
右借入金の支払利息は、昭和六三年度三二五万三六三七円、平成元年度五五一万七七九四円、平成二年度七二〇万七六四六円であった。なお、被告の更正・賦課決定処分では、昭和六三年度の当該支払利息を二八六万七八九六円と判断して決定をしている。
3 原告は、昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の各所得税の確定申告(申告日各翌年三月一五日)において、右支払利息を全部必要経費として、別紙課税処分等の経緯(昭和六三年分)、同(平成元年分)、同(平成二年分)の各確定申告欄のとおり確定申告し、その後、平成元、二年度分について平成三年一一月一九日当該支払利息中退職者分(平成元年度五五万六〇四〇円、平成二年度一六五万四七七五円)を自己否認し、利子以外の自己否認分(平成元年度二三万九九八二円、平成二年度三五万一九七八円)と合わせて必要経費から除外して、同別紙の各修正申告欄のとおり修正申告した。
4 被告は、右各確定申告(平成元、二年度分の修正申告後のもの)につき、平成三年一二月二六日、支払利息のうち積立部分の支払のための借入金に関する部分として九二パーセント相当額は必要経費ではないとして、当時被告がこれに相当するとした額(但し、原告が修正申告で自己否認済の分は控除)を否認して必要経費から除外し、別紙課税処分等の経緯(昭和六三年分)、同(平成元年分)、同(平成二年分)の各更正・賦課決定欄のとおりの課税処分(更正及び過少申告加算税賦課決定処分)をし、原告に対し別紙税額計算表(税額計算)の再納付額・加算税額欄記載の額を新たに納付するよう命じた。
5 原告は、右各課税処分につき、別紙課税処分等の経緯(昭和六三年分)、同(平成元年分)、同(平成二年分)の該当欄記載のとおり異議申立・審査請求をしたがいずれも同各別紙該当欄記載のとおり棄却されている。
6 なお、原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の各所得税額及び納付額の基礎となる、収入・経費・控除・源泉徴収済の額等の基礎的な計数関係は、右2の支払利息のうち必要経費となる額及び平成2年度の所得控除のうち配偶者特別控除の有無の点を除き、別紙税額計算表の各欄に記載のとおり(申告・更正・被告主張の額を書分していない欄、但し、最後の更正・賦課決定欄を除く)であり、右各所得税額等につき本訴での原告と被告の計算の差異は、被告の計算で右必要経費性を否定した支払利息額と配偶者特別控除の額が、原告の計算した課税所得に加算されることになる点から生じたものである(なお、更正・賦課決定処分では、昭和六三年度の当該支払利息額は前記2記載の被告の判断額を前提にしており、平成二年度の配偶者特別控除は否認していない)。
三 争点等
1 以上を前提とした本件の主な争点は、原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の各所得税に関し、本件保険契約の一括前払保険料の支払に充てた借入金の当該年度分の支払利息(原告が修正申告で自己否認した退職者分相当額を除く)につき、積立部分対応額(九二パーセント)と保険部分対応額(八パーセント)とに区別して、積立部分対応額(積立保険料)を必要経費ではないといえるか否か、の点であり、次に、本件では、この判断に応じて原告の当該年度の所得税額の検討を要する。
また、本件では、原告が被告の当該更正・賦課決定処分の違法事由として主張するその他の事情として、(1)不公平取扱、(2)他事考慮、(3)処分事由の差替え、の各点についても、必要に応じて検討を要するところである。
2 右争点等につき、原告は、次のとおり主張する。
(一) 本件保険契約は、原告の事業に必要な従業員の福利厚生を主な目的とするものであって財テクを目的とするものではなく、解約返戻金等は一時所得ではなく事業所得としており、原告は本件保険契約では受取額より支払額が多くて財テクにも節税にもなっていない。
(二) 本件保険契約は保険部分と積立部分を分離できない一体のものとしてしか契約できないものであり、その点では両建預金の為の借入金利息が全額必要経費と認められる場合と同じ関係にあるから、当該支払利息全額(前記自己否認分を除く)が必要経費にあたる。なお、契約加入時には、当該支払利息全額が必要経費となるとの説明であり、これが当時の課税の実務でもあった。
(三) 当該更正等の処分は、本件保険契約と同一の保険に加入した歯科医師の中で原告だけが受けた不公平な取扱であり、被告が平成三年に為した原告に対する税務調査で成果がなかったことへの報復とした考えられない他事考慮による処分であって、手続的にも違法である。
(四) 被告が本訴において、当該更正処分等の理由とは別の理由を主張して税額に誤りはないと主張するのは、処分理由の差替えで許されない。
第三検討・判断
一 (当該支払利息のうち必要経費といえる範囲について)
1 前記争いがない事実、及び、保証証券(甲5乃至10各号)、保険の約款(乙1、2、6、7)、保険の説明書類(乙3、4、10乃至12)、保険契約の規定集(乙14乃至17、20、21)、社内研修資料(乙19)、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告の加入した本件保険契約は、傷害保険機能のみの契約(いわゆる掛け捨て保険)とは異なって、保険期間中の傷害保険機能の外に、保険料の一部が積立金として保険期間中運用されることにより保険期間満了後に積立金に運用益を加えた満期返戻金が配当金と共に支払われる貯蓄機能をも併せ持ち、かつその保険料(積立金分も含む)を加入時に一括払する特約のもの(一時払式積立型基本特約付普通傷害保険=積立普通傷害保険)であって、その契約内容は、別紙本件保険契約の内容のとおりであったところ、その保険料は、傷害保険機能の対価分と積立金の寄託分(積立保険料)とを別々に計算した合算額として設定されていた。
(二) 本件保険契約(個人・一時払・保険期間五年)の保険料のうち積立保険料は、寄託される積立金分に積立部分の営業経費を加算したもので、標準的な契約の場合は保険料一〇〇万円につき九二万〇〇〇五円(即ち満期返戻金一〇万円に対し八万二〇九二円)であった(乙1の40頁、乙19の9頁、弁論の全趣旨)が、特約内容によっては保険料一〇〇万円につき九三万一一〇〇円(乙20の43、44頁、弁論の全趣旨)となっていた。そして、本件保険契約は標準的な契約の場合であったとみられるが、仮に特約内容により右のとおりの標準的な契約とは異なる保険料の契約が含まれていたとしても、いずれにせよ、保険料のうちの積立保険料の割合は九二パーセント以上であって、その残りが補償保険料となっていた。
なお、千代田火災の保険料については、積立保険料の割合が九一・九九パーセントとする書類もある(乙19の9頁、甲13計算書)けれども、他の資料(乙19の8頁、乙20)と対比すると、右にいう積立保険料は、積立部分の営業経費部分を除いた純粋に寄託される積立金部分を指しているとみられ、営業経費分を加算した「積立特約保険料」としては、やはり九三・一パーセント程度になるから、右千代田火災の書類(乙19の9頁、甲13)は前段の認定を覆するものとはならない。
(三) 本件保険契約当時の損害保険会社の説明資料や約款等には、本件保険契約のような一時払式積立型基本特約付普通傷害保険(積立普通傷害保険)の保険料には、積立部分と保険部分があって、税務処理上は、保険部分の保険料の支払(支払のための借入金の利息も含む)は必要経費となりうるが、積立部分の保険料の支払は資産計上し、その部分の支払のための借入金の利息は必要経費にはならない、との旨の記載があり、支払保険料全部(その支払のための借入金の利息全部)が必要経費となるという実務慣行や一般認識があったとはいえない。
(四) 本件保険契約当時、損害保険会社は、積立特約付ではない普通傷害保険や、積立特約付でも一時払でない月払・半年払・年払等の普通傷害保険を販売しており、本件保険契約のような一時払式積立型基本特約付普通傷害保険でなければ普通傷害保険に加入できないという状況ではなかった。
(五) 本件保険契約は、契約時には被保険者は原告の営む歯科診療所従業員であったが、前記修正申告からみても、退職者の保険契約を変更せず補充の新採者を被保険者とせずに放置していたことが窺われ、また、同一従業員を被保険者として数口加入して保険金額もかなり高額になるものであって、原告の営む歯科診療所の就業規則等で従業員の死亡退職金等と右保険金との関係等を取決めていたとはみられず、これらは本件保険契約が主に従業員の福利厚生目的とするものとしては考えにくい状況である。
なお、本件保険契約による死亡保険金等の受取人は、一部の契約は原告、一部の契約は被保険者の相続人、満期返戻金・配当金の受取人は原告、として加入しており(但し、受取人の指定は契約者である原告がいつでも変更できる)、また、死亡保険金の支払があれば満期返戻金・配当金は支払われないという契約であった。
2 右事実によれば、本件保険契約は、積立部分と保険部分とを併せ持つ契約であるが、積立部分が寄託金運用、保険部分が傷害補償というように機能的には明確に分かれていて、これに応じて保険料自体も両方の部分を分けて算定したうえ合算しており、両方の部分を明確に区分できる契約であるといえる。
そして、本件保険契約の積立部分は、積立保険料として一定額を損害保険会社に寄託して運用益を期待するものであって、死亡保険金が支払われる時には満期返戻金・配当金が支払われないという保険特有の制約はあるけれども、そのような場合は稀であって基本的には貯蓄の性質が強いものであり、主に従業員の傷害補償に充てられると期待される補償保険部分(いわゆる掛け捨て保険と同じ趣旨の部分)とは性質が異なるものである。
このように、本件保険契約の積立部分は、従業員が期間中に死亡した場合に受取人の指定の仕方によっては遺族保障的な意味も出るとしても、従業員が退職後の被保険者のままであり新採従業員が被保険者になっていない等の事情からみて、原告の営む歯科診療所の従業員を対象とした福利厚生を主な目的としたとはいい難いものであって、右性質どおり原告の貯蓄を主な目的としたものといわざるをえないから、右積立部分に対応する保険料(積立保険料)部分の支払は、原告が右歯科診療所経営の為に必要であった支出とは認められない。
そうすると、本件保険契約の一時払保険料のうち積立保険料部分(積立部分の営業経費を含むもの)は九二パーセントを上回る割合を占めていて、右一時払保険料全額の支払に充てた金融機関からの借入金計九五〇〇万円のうち少なくとも九二パーセント相当額は積立保険料部分であって、これは右のとおり右歯科診療所経営の為に必要な支出ではないから、右積立保険料部分に相当する額の借入金及びその支払利息もまた、右歯科診療所経営の為に必要なものとはいえない。
従って、前記支払利息(前記第一の二2)のうち九二パーセント相当額は、原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の所得に関する必要経費とはいえない。
3 これに対し、原告は、本件保険契約は保険部分と積立部分を分離できない一体のものとしてしか契約できないものであり、その点では両建預金の為の借入金利息が全額必要経費と認められる場合と同じ関係にあるから、当該支払利息全額(前記自己否認分を除く)が必要経費にあたる、等と主張する。
しかし、本件保険契約が積立部分と保険部分に区別できるのは右1、2の検討のとおりであり、また、本件保険契約では積立部分と保険部分を分離して一方のみの契約はできないけれども、保険部分だけが必要であればいわゆる掛け捨て保険に加入すれば足りることであって、両建預金の場合のように金融機関へ預金しないと必要資金の借入が事実上できない場合とは事情が異なるから、両建預金の為の借入に必要経費性が認められたことを根拠とする原告の右主張は採用できない。
また、原告は、本件保険契約を解約した平成三年度の確定申告では、解約返戻金を事業所得として被告に申告して更正を受けていないから、事業所得である右解約返戻金の為に必要であった一時払保険料の支払の為の借入金及び支払利息は全額必要経費である、契約加入時の説明も当該支払利息は全額経費とのことだった、と主張する。
しかし、原告が平成三年度の所得税の確定申告で、仮に、当該解約返戻金を税額が低くなる一時所得ではなく、必要経費が認められないと税額が高くなる事業所得として申告したのに対し、被告が更正しなかったとしても、これにより直ちに被告が当該支払利息全額を必要経費と認めたことにはならないうえ、そもそも右確定申告は本件と直接関係のない平成三年度のものであって、昭和六三年度から平成二年度までの原告の所得税に影響を及ぼす状況は見出せないし、更には、契約時に原告がどのような説明を受けてどのような認識であったかは、必要経費か否かは原告の認識を離れて客観的に決まるものであるから、当該支払利息の一部を前記1、2のとおり必要経費ではないとしたことに影響を及ぼすものではなく、これらについての原告の右主張も採用できない。
二 (原告の当該年度の所得税額の計算)
1 原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の所得税の課税所得額は、別紙税額計算表(課税所得計算)の「収入額」、経費のうち「利子外経費額」、「保険外利子額」(以上争いがない)と、本件保険料支払の為の借入金の支払利息の当該年度分の額(保険利子欄の〔支払額〕=争いがない)のうち退職者関係分以外の額である原告の修正申告額(保険利子欄の「申告」の額)につき、必要経費としては右一の検討結果のとおりの被告の主張額(保険利子欄の「(被告の主張)」の額、即ち原告の修正申告額の八パーセント)を用いて、更に、同表の「青色申告控除」「各種所得控除」の額(但し、平成二年度の配偶者特別控除は、次段のとおり適用ないものとする)によると、当該課税所得額は、端数処理をして、同表(課税所得計算)の課税所得額のうち各年度とも被告の主張額(一一二三万円、一〇七九万六〇〇〇円、一〇八一万円)のとおりの額と算定される。
なお、右各青色申告・各種所得控除額については、被告の否認する平成二年度の配偶者特別控除以外は争いがなく、右配偶者特別控除は更正処分では否認していないが、原告の当年度の所得が一〇〇〇万円を超えるため適用にはならない。
2 次に、右課税所得額を基礎に、当該年度の原告の所得税額を算定すると、昭和六三年度が二五九万二〇〇〇円、平成元年度が二四一万八四〇〇円、平成二年度が二四二万四〇〇〇円、と算定される。
右本来の税額と更正額(前記税額計算表(税額計算)の所得税の額の欄にある更正額)とを比べると、更正額は、平成元年度は右本来の税額と同額(二四一万八四〇〇円)であり、昭和六三年度と平成二年度は、右本来の税額の範囲内の額である二四五万円、二二八万四〇〇〇円としてあるので、これら更正額を用いて、争いがない源泉徴収額を差引すると、還付すべき額としては、端数処理をして、同表の「納付・還付すべき額」欄の更正額どおりの額となる。
ところで、原告は、既に申告額による還付を受けているとみられるから、過大な還付を受けた分を再度納付すべきことになり、その納付額は、右更正額を前提とすると、同表の「更正賦課決定」欄の「再納付額」のとおり(昭和六三年度八七万八九〇〇円、平成元年度一三六万二七〇〇円、平成二年度一五一万三六〇〇円)となり、これに対する過少申告加算税等の賦課税額(国税通則法六五条一、二項によるもの)は、同欄の「加算税額」のとおり(昭和六三年度八万七〇〇〇円、平成元年度一七万八五〇〇円、平成二年度二二万一五〇〇円)となる。
3 従って、原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の所得税の確定申告について、被告が右のとおり、本来の所得税の額かその範囲内の額により為した本件の更正・賦課決定処分には、その税額の算定において原告の権利を侵害する過誤はなく、取消すべき違法事由はないといえる。
三 (その他原告の主張する違法事由について)
1 次に、本件では、原告が被告の当該更正・賦課決定処分の違法事由として主張するその他の事情として、(1)不公平扱い、(2)他事考慮、(3)処分事由の差替え、という手続的違法を主張するのでこの点を検討する。
2 原告が主張する不公平扱いというのは、原告の知人が本件保険契約と同種の契約をしてその一時払保険料に充てた借入金の支払利息全額を必要経費として申告したのに原告のような更正を受けなかった例がある、ということであり、仮にこのような例があったとしても直ちに原告に対する本件の更正・賦課決定処分を不公平扱いとして違法とするような事情とはいえない。
また、原告の主張する他事考慮というのは、被告が原告の所へ平成三年度の税務調査に入って何ら成果がなかったことから報復的に本件の更正・賦課決定処分をしたとしか考えられない、ということであるが、本件ではこれを窺わせるに足りる事情は全く見当たらず、原告の推測・受取り方の域を出ないことである。
更に、原告は被告が本訴で処分事由の差替えをするのは違法であると主張するけれども、租税訴訟の審判対象は、課税処分によって形成された税額の適否であり、処分理由は訴訟上の攻撃防御方法にすぎないらか、訴訟に至って課税処分による税額を基礎付ける新たな事由を主張することが許されないわけではないうえ、本訴では、被告が新たに主張する平成二年度の配偶者特別控除を否認していない更正処分を前提に、本件保険契約の一時払保険料の支払に充てた借入金の支払利息のうち被告が更正処分で必要経費性を否認した額につき必要経費性の有無の限度で争われているから、結論に影響を及ぼすような被告の本訴における処分理由の差替えといえるものはないともいえる。
3 右2のとおりであるから、本件の各更正・賦課決定処分と本訴手続において、原告の右種々主張するような手続的違法はなく、この点に関する原告の主張は採用できない。
第四結論
以上の検討結果によれば、被告のなした本件の各更正・賦課決定分については原告の権利を侵害する違法はなく、これらの処分(但し、各更正処分については原告の申告額を超える部分)の各取消を求める原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用を原告の負担と定め、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千德輝夫 裁判官 三島琢 裁判官大久保正道は転補の為署名押印できない。裁判長裁判官 千德輝夫)
(別紙)
昭和六三年分 課税処分等の経緯
<省略>
(別紙)
平成元年分 課税処分等の経緯
<省略>
(別紙)
平成二年分 課税処分等の経緯
<省略>
(別紙)
税額計算表
<省略>
<省略>
(別紙)
本件保険契約の内容
<省略>